mac OS X 10.6 の azerty キー配列

(この投稿は過去に書いたものの転載です)


フランス語入力 Mac French キーボード覚え書き。

気づくことなどがあれば、加筆予定。

OS環境:Mac OS X ver. 10.6.1
キーボード:MacBook Pro (JIS)


まず、標準。一部記号配列が windows と違う。
オレンジ色のキーはデッドキーで、
例えば、「^」を押した後で「a」を押すと、
« â » が入力される。
デッドキーを押した後、space キーを押せば、
記号そのものが入力できる。


shift

shift を押すことで上段から数字が入力できるのは windows と同じ。
よって、アクサン付き大文字は shift を押しても入力できない。
ただし、caps キーで大文字にすることが可能。(windows では不可)


option(alt)

option(windows の alt に相当)を押した場合は、
windows では入力できない記号がかなり打てる。
« … œ æ など。(windows なら Alt + テンキーで文字参照)

ついでに、見た目ではわかりにくいのだが、
option + space でNBSP(espace insécable)が打てる。
これは、通常のスペースと違って自動改行の対象にならない。
言い換えると、NBSPの前後の単語は一つの単語扱いになる。
フランス語(フランス)では約物(?, !, ;, : など)の前に空白を入れるので、
そういうときに約物が行頭に出ないようにするために使う。-

option + shift + space だとキーボードの切り替えになるので注意。


option(alt) + shift

さらに shift を組み合わせることで、大文字や、対の記号が打てる。
» Œ Æ など。

「へ」キーの - と – の使い分けに注意。
「へ」単独の - は、HYPHEN-MINUS(Unicode : 002D)で、通常 trait d'union で使うのはコレ。
option + shift +「へ」の – は、EN DASH(Unicode : 2013)で、使うとすればリストの頭など。
あと、option +「へ」の — は、EM DASH(Unicode : 2014)で、主に会話文の導入など。

ただし、この辺の使い分けはフランス人も結構適当。
しかも、Unicode には、HYPHEN-MINUS[trait d'union-signe moins](002D)とは別に、
HYPHEN[trait d'union](2010)という、‐ があるのだが、キーボードからは打てない。


caps

caps を押した場合、windows と違って、
アクサン付き文字もそのまま大文字になる。
windows では、shift を押した状態と同じになる。
例えば、上段は数字が入力される。
Mac でも、 French - Numerical を選べばほぼ同じ状態になるよう。
この場合、shift を押すと別の記号になるアクサン付き文字などの大文字は、
デッドキーとの組み合わせ以外では入力できない。

French 選択後は、「英数」キーと「かな」キーで、
French と ひらがな(日本語)とを切り替えられる。
ただし、日本語入力中に「英数」キーを二度押ししても、
英数文字にはならない。
(Mac では、日本語入力中に「英数」キーを二度押すと、
未変換の文字が英数入力された状態になる。
windows で変換中に F10 を押すのに近い。)

windows xp での azerty キー配列

(この投稿は過去に書いたものの転載です)

Windows でフランス語入力する際の覚え書き。
たいてい、日本やアメリカと同じQWERTY配列の
フランス語(カナダ)が薦められているので、
ここはあえて、AZERTY配列のフランス語(フランス)で。

OS環境 : Microsoft Windows XP Home Edition Version 2002 Service Pack 3
キーボード : 109キーボード(JIS配列)

数字は Shift と同時押しで入力。
QWERTY配列と比べると、
A ↔ Q, W ↔ Z, M → L の右隣、といった違いがある。
記号の配置は全体的に異なっている。
「jp」となっているところは無効。


標準

「半角/全角」キーには、² が割り当てられている。
その他、入力できる記号は以下の通り。
&é"'(-è_çà)=
^$
ù*
,;:!

^ はデッドキーになっており、続けて母音を入力することで、
accent circonflexe 付き文字を入力可能。
デッドキー入力後、スペースキーで、記号そのもの(^)が入力可能。
母音入力時に Shift を押せば、大文字も入力可能。

âêûîô
ÂÊÛÎÔ


Shift

Shift を押すことで数字を入力可能。
Shift + 「半角/全角」キーは無効。
その他入力できる記号は以下の通り。
°+
¨£
%µ
?./§

¨ はデッドキーになっており、続けて母音を入力することで、
tréma 付き文字を入力可能。
デッドキー入力後、スペースキーで、記号そのもの(¨)が入力可能。
母音入力時に Shift を押せば、大文字も入力可能。

äëüïöÿ
ÄËÜÏÖ

¨(Shift + ^) → y = ÿ

で、ÿ が入力できるのに、なぜか

¨(Shift + ^) → Y(Shift + y) = ¨Y

では、¨Y になってしまい、Ÿ は直接入力できない。


AltGr

日本語入力では左右の Alt キーは、区別されないが、
フランス語入力では右の Alt キーが、AltGr キーとして機能する。

AltGr キーを押すことで入力できる記号は以下の通り。
~#{[|`\^@]}
€¤

~ はデッドキーになっており、続けてa, o, n を入力することで、
tilde 付き文字を入力可能。
デッドキー入力後、スペースキーで、記号そのもの(~)が入力可能。
a, o, n 入力時に Shift を押せば、大文字も入力可能。

ãõñ
ÃÕÑ

その他の母音は不可。
~e~u~i

ã, õ はポルトガル語、ñ はスペイン語の単語を入力するためのものだと思われる。

` もデッドキーになっており、続けて母音を入力することで、
accent grave 付き文字を入力可能。
デッドキー入力後、スペースキーで、記号そのもの(`)が入力可能。
母音入力時に Shift を押せば、大文字も入力可能。

àèùìò
ÀÈÙÌÒ

小文字の à, è, ù は単独で入力可能。
ì, ò はフランス語では使わない。

CapsLock を ON にすると、
Shift を押したのと同じ状態になる。
CapsLock + Shift で、標準の配列。
ただし、「半角/全角」キーだけは、CapsLock 状態でも ² で、
Shift と同時押しは無効。

ヨーロッパで標準の102/105キーボードでは以下のような配列。

W(左下)のさらに左に < のキー(Shift で >)があるが、
日本で標準の 106/109キーボードではキー自体がないので入力不可。
余ってる「jp」キーを充てればいいのに、と思うが。
どうしてもフランス語入力を維持して入力したい場合は、文字参照(後述)を使う。

フランス語で使う以下の文字は直接入力できないので、
数値文字参照(Alt + テンキー)を使うか、
「特殊文字の挿入」や「文字一覧」から入力、
あるいは他の文字で妥協する。

数値文字参照ではテンキーが必要。(NumLock を ON にすること)
ノートPCでテンキーがない場合も、NumLock を ON にすることで、
キーボードの一部がテンキーの代わりになるものもある。
日本語入力選択中は使えないので注意。(「半角英数」でも無理)
ここでの Alt は AltGr ではなく、
つまり、左Alt なので注意。

Ç : Alt + 0199, C で代用。
É : Alt + 0201, E で代用。(大文字のアクサンは省略される)
œ : Alt + 0156, oe で代用。
Œ : Alt + 0140, OE または Oe で代用。

… (points de suspension) : Alt + 0133、...(points 3つ)で代用。
« : Alt + 0171, " で代用。
» : Alt + 0187, " で代用。
‹ : Alt + 0139
› : Alt + 0155
– (tiret moyen) : Alt + 0150, - で代用。
— (tiret long) : Alt + 0151, - で代用。
 (espace insécable) : Alt + 0160, 通常のスペース( )または使わない。

espace insécable( )は、ノーブレークスペース(NBSP)のこと。
フランス語(フランス)では一部の約物(?, !, :, ; など)の前に空白を入れるので、
約物の前で自動改行が行なわれて行頭にこないようにするもの。
J'ai une question : l'espace « insécable », qu'est-ce que c'est ?
上で となっている部分が espace insécable 。
さらに正確には、espace fine であるべきなのだが、
ユニコード上の espace fine insécable (U+202F)は、まだ一般化されていないので、
いちいち espace insécable の文字サイズを半分に指定するか、
espace fine sécable(改行されてしまう)や、
espace insécable そのままで妥協する。

ほとんどの人は、そんなことを気にせずに、
普通のスペースで済ますか、あるいはスペースを入れないよう。
また、人によって微妙な使い分け( ; の前はスペースなし、: の前はアリ、など)がある。
フランス以外の国では、スペースを入れないこともある。(カナダなど)

ワープロソフトによっては自動で置き換わる。(あるいは独自の禁則処理?)

その他、たまに使われるもの。

æ : Alt + 0230
Æ : Alt + 0198
Ÿ : Alt + 0159

’(apostrophe) : Alt + 0146, ' で代用。
シングルクォーテーション(閉じ)と兼用の記号。
' は左右対称なので、字体に拘るならこれを使う。
ワープロソフトによっては自動で置き換わる。

上述のデッドキーの組み合わせで入力できる文字も、
あると何かと便利なので、羅列。

À : Alt + 0192
 : Alt + 0194
È : Alt + 0200
Ê : Alt + 0202
Ë : Alt + 0203
Î : Alt + 0206
Ï : Alt + 0207
Ô : Alt + 0212
Ù : Alt + 0217
Û : Alt + 0219
Ü : Alt + 0220
à : Alt + 0224
â : Alt + 0226
ç : Alt + 0231
é : Alt + 0233
è : Alt + 0232
ê : Alt + 0234
ë : Alt + 0235
î : Alt + 0238
ï : Alt + 0239
ô : Alt + 0244
ù : Alt + 0249
û : Alt + 0251
ü : Alt + 0252
ÿ : Alt + 0255

< : Alt + 0060
> : Alt + 0062

複合時制の助動詞と過去分詞アレコレ

フランス語には直説法複合過去に代表される複合時制 temps composé があって、これは対応する単純時制 temps simple に置かれた助動詞 auxiliaire と過去分詞 participe passé で表される。助動詞は全ての他動詞と多くの自動詞では avoir が用いられ、一部の自動詞と全ての代名動詞には être が用いられる、ということになっている。助動詞に être をとる自動詞は、一般に「移動や状態変化を表す、完了動詞」などと説明されるが、数は限られていて、実際的には丸暗記した方が早い。そして、さらには助動詞に être をとるか avoir をとるかで意味が変わってきたりする動詞まである。なんでこんなことになったのか。

助動詞に être をとる動詞の説明をする前に、まず avoir + p.p. の形をとる複合時制がどうして生まれたかを簡単に。ラテン語にはこれに対応する形態がない。つまり、助動詞+過去分詞という迂言的 périphrastique な形を使わず、例えばフランス語の j’aime に相当する amo に対して、j’ai aimé に相当する形は amavi となる。この完了形 amavi は古典期において、フランス語の複合過去よろしく、「完了」というよりは単純に「過去」を表すことが多かったらしい。一方で avoir + p.p. にあたる形の p.p. + habere もまた古典語において既に使われてはいた。ただし、この場合、p.p. は habere の直目たる対格名詞を形容している。たとえば Caesar urbem occupatam habet. 「カエサルは占領された町を所有している」という文のように(この文は Wartburg, p. 49 による)。しかし、実際にはこの構文が完了に近い意味をもったこともあったとされる。プラウトゥスには Liberos parentibus sublectos habebis「お前は両親から奪い取られた子たちを持つだろう=お前は子たちを両親から奪い取ってしまうだろう」という文が見られる。

したがって、過去分詞は本来、直目にあたる対格名詞と常に性数一致していた。しかし、この構文の habere から「所有」の意味が失われ、構文全体が「完了」を表す強調形として用いられるようになるにつれ、habere は単に人称を表すマーカーになり、語順も次第に現在の形に固定され、動詞の主要部として意識されるようになった過去分詞の性数一致は任意のものになっていった。

ところで、現代フランス語においても、直接目的語が過去分詞に先行する場合、過去分詞は直目に性数一致するという規則が残されている。例えば、 j’ai écrit une lettre : une lettre que j’ai écrite のように。この規則の始まりは16世紀の詩人 Marot に遡る。彼は、過去分詞が性数一致を起こしていた古い用法(il a l’espée prise)、および当時のイタリア語を範にとって(Dio noi a fatti)、ほぼ現在と同様の規則を推奨した。当時から口語ではほとんど守られていなかったようだけれど、Vaugelas などの後押しもあり、書き言葉においては現代まで「人工的」だと感じられながらも残ることとなった。

さて、次に être + p.p. の形式だけども、これは一部の自動詞の複合時制の形であると共に、全ての他動詞の受動態の形でもある。ラテン語においては、フランス語の je suis aimé に対応する amor のように活用語尾のみで受動を表した。それでは、複合過去に対応する形態がなかったように、受動態にも迂言的な形がなかったかといえば、実は amatus sum という形があった。ただし、これはフランス語でいうところの j’ai été aimé、つまり受動態の「完了」を表していた。つまり、次のような関係になる:

現在: 完了
能動amo: amavi
受動amor: amatus sum
ところが、音韻変化によって、語末の -r が発音されなくなると、amo : amor の対立が崩れ、ここに amatus sum が入り込むことになる。そもそも、esse が現在形であったこともあり、amabilis sum のようなものと並行的に捉えられたようである。

ところでラテン語には deponentia(「形式受動態動詞」「能相欠如動詞」などと訳される)と言われる一群の動詞があった。これは、活用上は受動態しか持たない(上記の amor, amatus sum のように活用する)が、意味上は能動態となる動詞を意味する。形は受動で意味は能動という結びつきは、ラテン語話者の直観にも抵抗が感じられたのか、古典期以前より民衆の間では対応する能動態に置き換えられていたようだけども、先ほど述べた音韻変化も手伝って、この置き換えが後押しされ、ロマンス諸語において deponentia は消滅した。とはいっても、この場合は、もともと使われていなかった能動形への単なる置き換えであり、受動態完了形はそのまま残されている。例えば partior「私は分割する」から現在形 *partio (> je pars)、完了形 *parti(u)i (> je partis)、あるいは morior 「私は死ぬ」から現在形 *morio (> je meurs)、完了形 *morui (> je mourus)が作られ、本来の完了形であった partitus sum, mortuus sum は、単なる「過去」を表す完了形に代わって「完了」を受け持った avoir + p.p. と同じ時制を受け持つことになった。

しかし、deponentia 由来の動詞すべてが複合時制で助動詞に être をとるわけではない。例えば、imitor : imitatus sum は、現代フランス語で j’imite, j’ai imité となる。これは、deponentia がもはやなくなったロマンス語では他動詞の être + p.p. が受動態を表す形態になっていたことが大きな原因だろう。他動詞の複合時制は全て avoir + p.p. に置き換わった。一方で、もともと deponentia ではなかったのに、助動詞に être をとる動詞もまた存在する(aller, venir, etc.)。これは、avoir + p.p. の p.p. が本来、avoir の直接目的語にかかっていたものであるということもあり、直目を持てない自動詞は、être + p.p. との相性がよく、受動態と間違われることもないためこの形が生き残ったんでなかろうか。また、monter, sortir といった動詞は自動詞か他動詞かによって助動詞を使い分けることで、うまくこの対立を利用したんだろう。

最後に、助動詞として例外なく être をとるとされる代名動詞だけれど、実は中世、とくに地方においては être 程でないにしろ、助動詞に avoir をとった代名動詞の用例が多く見つかり、また口語においては今も観察されるらしい。つまり、助動詞に être のみを使うというのは一種の規範として整理されたものっぽいのだけれど(未確認)、それでも être が優位であったことにはいくつか理由があげられる。現代フランス語において、代名動詞は専ら他動詞の中動態的あるいは受動的な用法として使われるが、古フランス語においては、それに加えて、主語の行為に対する関与、関心の強さを表すために自動詞にも使われた。これは現代フランス語においても s’en aller, s’enfuir, se rire などにその名残が見える。これらの用法は古典語においても中・受動態や、ラテン語の deponentia が引き受けていた用法だった。受動的用法も含め、これらの意味を表すのに助動詞 être との相性がよかったと言えるんじゃなかろうか。結果的に、動作の結果が主語に及ぶか、直目に及ぶかによって、次のような助動詞の対応関係が成立する。je suis monté vs. je l’ai monté : je me suis levé vs. je l’ai levé.

Biblio.
Banniard, Du latin aux langues romanes, Arman Colin, pp. 59-62
Cerquilini, Merci Professeur !, Bayard, pp. 22-23
Chaurand, Histoire de la langue française, PUF, p. 36
Grevisse, Le bon usage, de Boeck Duculot, §§. 810 sqq., 943
Wartburg, 『フランス語の進化と構造』田島他訳, 白水社, pp. 49, 112
島岡, 『フランス語の歴史』, 大学書林, pp. 88-90

不定詞・不定法 infinitif の何が「不定」なのか

「不定詞」、あるいは「不定法」「不定形」などと訳される infinitif は、一体何が「不定」なのか。infinitif という用語自体はラテン文法の infinitiuus に由来し、このラテン語もまた、おそらくギリシア語で「不定法」を指す ἀπαλέμφαρος「何も付帯的なものがない」に由来するものらしい。

さしあたって、仏文法では infinitif がどのように定義されているかみると、例えば Grevisse は次のように述べている(§ 900):« L’infinitif est un mode qui ne porte ni l’indication de nombre, ni celle de personne. »「不定法は数の指示も、人称の指示も持たない法である。」例えば、aiment という形は、それだけで主語が3人称複数であることが示されるが、aimer という形には主語の人称・数の情報がない。これは、ラテン語およびギリシア語でも同様である。

ところで、動詞の活用体系のうち主語の人称・数を示さないのは不定詞だけでなく、例えば一連の分詞にも当てはまる。なぜ、特別に不定詞だけを infinitif と呼ぶかと言えば、これは古典文法では「法」modus の一つとして考えられたからで、直説法や接続法などと対比されるものだった。上で « un mode » と説明されているのも、「不定法」という訳もそこから来ている。最近ではその機能から、« une forme nominale du verbe »「動詞の名詞形」などと説明され、動詞と形容詞の機能を併せ持つ分詞と同列に扱われることが多い。「不定詞」「不定形」といった訳語はそれを受けたものである。

biblio :
Grevisse, M., Le bon usage, de Boeck Duculot.
風間喜代三『ラテン語とギリシア語』三省堂

なぜ imparfait を「半過去」と訳すのか。

仏文法の imparfait は日本では通例「半過去」と訳されている。
ラテン語の imperfectum に由来するこの時制名称は、他のロマンス語でも対応する形が使われ、したがって「半過去」という訳語も用いられているようだけれど、他のロマンス語学で見られる「未完了(過去)」「線過去」といった呼称は、あまり仏文法ではみかけない。そこで「半過去」ってなんだよ、何が「半」なんだよ!という疑問がしばしば提出されるわけだけれど、実は「半過去」という文法用語は、もともと仏文法(ロマンス語文法)に限った用語ではなく、その初出は蘭語学に遡るらしく、古くはまた英文法、独文法でも使われていた。

「半過去」は当初より Imperfectum の訳語として使われ、他にも「過去ノ現在」「過了現在」「未成過去」といった訳語が使われた。ところで、この Imperfectum は英語でいうところの I loved の形を指すのに使われ、対して I have loved の形は Perfectum と呼ばれていた。これだけで見れば、なんだ今の「完了」と変わらないじゃないかと思うのだけれど、当時はアスペクトとは無関係に、この Perfectum こそ「完全な《過去》」であると捉えられ、「過去」「孤立過去」「完成過去」という訳語が与えられた。他方で Imperfectum は現在との繋がりを表す「過去ノ現在」=《半過去》と考えられたらしい。

ところが、むしろ I have loved の形こそ現在(完了)であると解釈されるにいたって、斉藤秀三郎の『スウヰントン氏英語学新式直訳』にて、この Perfectum が「半過去」と訳され、Imperfectum は「過去」と訳されるという逆転現象が起きた。当然、相当の混乱があったらしく、結局、英独蘭文法では「半過去」という名称は消えてしまった。

さて、仏文法で「半過去」という訳語が使われ始めた時にはすでに蘭語学等で使用されていて、これをそのまま借用したものとして、それではなぜ、英独蘭文法では消えてしまった「半過去」という用語が、仏文法では未だに使われ続けているのか、ということが問題になるのだけれど、…なんでだろう。思うに仏文法では imparfait の他に過去時制とされるものに、「単純過去」 passé simple と「複合過去」 passé composé (古くはそれぞれ「定過去」 passé défini、「不定過去」passé indefini などとも呼ばれた)などがあって、ただ「過去」と呼べる時制がなく、名称が入れ替わるような混乱がなかったではないだろうか(しかし、これは他のロマンス語文法でも事情は同じはずか…)。…と想像でしめるのも申し訳ないので、一応調べるにあたって出てきた関係ありそうな文献だけ下にあげておきます。

Biblio :
談話会報告「幕末の日本開国前後における西洋語・文化の受容とその影響」, 『フランス語学研究』45号, pp. 116-119

市川慎一 (1993), « Du francais au japonais par le truchement du hollandais. Difficultés rencontrées par nos premiers traducteurs : A propos de la Nouvelle Méthode des Langues Françoise et Hollandoise par Pieter Marin (Amsterdam, 1775) », 『文学研究科紀要第三十九輯』(文学・芸術編), 早稲田大学, pp. 15-27.
—— (1994),「『払郎察辞範』に見るフランス語と日本語」,『言語』1994-1, pp. 12-17.
富田仁 (1975),『仏蘭西学のあけぼの—仏学事始とその背景—』, カルチャー出版.

岡田和子 (2006), 「江戸および明治期の洋語学における文法用語の比較研究 : 和蘭語・英語・独逸語をめぐって」, つくばリポジトリ (Tulips-R)
また、こういう発表があったらしい:
岡田和子,『《半過去》誕生 - 明治を作った江戸の文法研究』, 平成23年11月26日, 日本仏学史学会


井島正博 (2009),「近代文典におけるいわゆる推量助動詞」, 『日本語学論集』第5号, pp. 51-92. UT Repository (pdfあり)
佐藤良雄 (1962),「文典用語の相互影響 -特に動詞過去の用語について-」, 日本大学文理学部人文科学研究所『研究紀要』第4号, pp. 41-61. 日本大学文理学部人文科学研究所 (pdfあり)

なんで femme は /fam/ なの?

-mm-, -nn- の前の母音は鼻音化しない。 したがって、 -emm-, -enn- はそれぞれ /ɛm/, /ɛn/ ということになるのだけど、 しばしば文法書には/ɛ/ではなく /a/と読まれる例外として次のような例が載っている。
-emment で終わる副詞 (ardemment /ardamɑ̃/, évidemment /evidamɑ̃/) と femme /fam/、 solennel /sɔlanɛl/, Rouennais /rwanɛ/ など。
数は限られているので、例外として教えるのになんら問題はないけれど、 一応、歴史的に説明できることはできる。

7世紀頃、鼻子音(m, n と湿音の n̮ /ɲ/)には前の母音を狭くする傾向があり、鼻子音の前のすべての e, o は狭い ẹ /e/, ọ /o/ になった。
古仏語において、11世紀から14世紀にかけて鼻子音の前の母音が鼻母音化する。
— 鼻母音化は広い音から始まり、段々と狭い音へと起こっていった。 すなわり、まず a、次に狭い ẹ, ọ、最後に i, ü /y/ という順で鼻音化した。
— (古仏語における)アクセント音節、閉音節ではより早く、より強く鼻母音化し、対して語頭音節、開音節では鼻母音化はより遅く、より弱かった。
— 鼻母音化は母音を開く効果をともなった。
ẽ > ã (俗羅 ventu > 古仏 vent [vãnt] > 現仏 /vɑ̃/)
N.B. 古仏語においては鼻子音が発音されていた。

現代フランス語の発音は便宜上IPAで /vɑ̃/ のように表記するが、対してここでの [vãnt] のような表記は音韻史で一般的なロマニスト表記で、IPAの厳密表記というわけではないので注意。

16世紀後半から17世紀前半にかけて非鼻音化が起こる。これによって二つの鼻音(鼻母音+鼻子音)のうち一方のみが維持された。
— 子音が次の音節の頭(外破の位置)にある場合、これが維持され、母音は非鼻音化される。
— 子音が前の音節の後ろ(内破の位置)にある場合、子音が落ち鼻母音は維持された。

非鼻音化は語末の e̥ /ə/の消失(17世紀)より早く、今度は鼻音化と逆の順に:狭い母音から広い母音へと順次起こった。
ここから次の対立が説明される。
俗羅 bonu, bona > bon, bon(n)e 古仏 [bõn], [bõne̥] > 現仏 /bɔ̃/ vs /bɔn/
俗羅 ventu > vent 古仏 [vẽnt], [vãnt] > 現仏 /vɑ̃/
vs 俗羅 fem(i)na > femme 古仏 [fẽme̥], [fãme̥] > 現仏/fam/

綴り -mm-, -nn- は鼻母音+鼻子音がどちらも発音されていた頃の名残(bon [bõ] + ne [ne̥])。
古フランス語の ã (< en) に対して、語源的な綴り en/em と表音的な綴り an/am との選択は写字生によって揺れがあった。例えば現代フランス語 langue < lingua は古仏語の lengue に対して、表音的な綴りが生き残った。

Biblio :
Laborderie, N., Précis de phonétique historique, Armand Colin, 2e éd., 2009.